長野善光寺に突如現れたドグーン、徐々に広がる破壊と殺戮に街は大パニック。
機動隊でもなすすべのないこの未知の相手に対し、戸隠神宮から繰り出された対策チームがドグーンに向き合います。
しかし仮具土のハニワット、操る仁をもってしてもそこには圧倒的な力の差が。
不用意な攻撃もあり壊滅してしまう仁のハニワットを受け、次に立ち向かうのは弥生縄とその彼が招聘した凛とその彼自身の別の姿でもある真具土のハニワット。
長野の熊森の里を訪れた弥生縄と凛は、そこに居た柔里と運命の出逢いをするのでした…
そんな2巻の終わりから、この3巻は始まり、ドグーンとの仕合いのストーリーが展開、4巻で一部は終了となりました。
このハニワットの魅力は前回の聖地考察でものべましたが、
- その圧倒的な設定資料に基づく歴史感
- 幼少の頃から刷り込まれてきた「ヒーロー物」に対する躍動感
そして
- この令和の時代に息づく私たち自身への人生観
に強く訴えかける傑作である点です。
今回もこの漫画の大ファンとして、その3~4巻・第一部の舞台となった長野の各場所を、ファンなら訪れるべき聖地探訪の内容として考察とともにご紹介していきます。
ハニワットとは?
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第3巻、第1話では、実は主人公とヒロインは別だったのだと、読者がいい意味で裏切られた、
久那土凛(くなどりん)と御衣乃柔里(みそのゆり)、この2人の運命的な出逢いから始まります。
ぎこちない2人ですが、その後周りの事態、そして奇縁の運命からドグーンに立ち向かっていくこの男女。
そしてここからの2人の和合(シンクロ)に向けての礼法の数々、そしてやはり長野市街地を巻き込んだ対ドグーン戦は、その結末まではとても臨場感のある展開で息を呑みましたね。
今回はそれらの舞台となった長野の劇中に登場する場所をお伝えしていきます。
と、その前に…
ハニワットの魅力はどこ?
国宝「仮面の女神」の3Dスキャンデータから実物大ぬいぐるみを作りました。 pic.twitter.com/XkcwZSbvKc
— osaka (@osakaplush) September 15, 2021
前回の内容では、その魅力を、
- 1990年代の「新世紀エヴァンゲリオン」
- 2000年代の「進撃の巨人」
などと同じ、昭和、平成、と、各時代・年代の、当時の日本に漂っていた空気感と合致していた人気漫画たちに繋がる系譜として、この「ハニワット」がある、とお伝えしました。
時代と強く和合(シンクロ)していた作品群、
この「令和」の時代を代表する作品となるのが、この「古代戦士ハニワット」
だと力説させていただきました。
そしてさらに、また別の魅力でいえば、
- 圧倒的な日本の歴史に由来する、設定のリアルさ、情報量
ではないでしょうか。
この後紹介するモデルとなった場所、繰り出される用語の数々はすべて歴史マニアにもたまらないものばかりです。
ではそれらを漫画の進行に合わせ詳しくご紹介していきます。
ハニワット聖地探訪・長野編!3~4巻中に登場した場所を考察!
いよいよ来週2月28日古代戦士ハニワット4巻発売です!長野善光寺編完結!!その続き(第二部第1話)が3月中旬発売の漫画アクション7号で読めます。今回も部数控えめスタートなので(苦笑)大型書店が近くにない方は是非ご予約を。第二部連載再開までに読んで欲しい~!よろしくお願いいたしますっ♥️ https://t.co/ynhacBIvXU pic.twitter.com/KOfekPwBbN
— 武富健治@ 古代戦士ハニワット原画展&色紙オークション10月開催!マンガナイトBOOKS (@ryosuketono) February 21, 2020
今回は前回の記事の続きとなりますので、まずこちらから先に御覧ください。
タイトルの都合上「3~4巻」としていますが、これからご紹介する場面は2巻の内容も含みます。
それではどうぞ!
ハニワット聖地探訪・長野編 ①美保神宮(島根県)
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
ヤヨイ・オグナ(弥生縄)の計らいで、主人公の凛が預けられ、2年間の修業の地としてすごしていた島根県の美保神宮、実際には「神宮」ではなく「美保神社」と言われています。
多くの巫女たちに囲まれた環境で、竜宮城のような雰囲気も劇中にはありますが、
こちらは大変歴史の古い古刹となります。
最近の研究では、境内からは4世紀頃の勾玉の破片や、雨乞いなどの宗教儀式で捧げたと考えられる6世紀後半頃の土馬埴輪が出土しており、歴史的にみて古墳時代以前にも何らかの祭祀場あったことがうかがえるそうです。
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
凛が出発の挨拶をするのは奥宮、一般人は基本的にあまり入らない、一番奥にあります。
別名「秘社」というのも、歴史ファンには興味が湧いてしましますね。
しかしここは心清らかに参拝を心がけましょう。
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
島根県と言えばやはり出雲大社、大国主神(おおくにぬしのかみ)の「国譲り神話」も舞台となった地であり、そこに関係する意味でこの美保神社には、大国主神の2人の息子、兄の事代主神(ことしろぬしのかみ)が祀られています。
ちなみにその事代主神の弟・建御名方神(たけみなかたのかみ)は国譲りに反対し派遣されていた建御雷神(たけみかづちのかみ)と力比べをしましたが敗れ、長野へと逃れます。
ここにも今回の長野との接点が設定されているのもまた興味深いですね。
えびす神、としても有名なその兄・事代主神ですが、彼は国譲りの際には争いをせず、海に身を隠し争いをさけました。
争いを選択しなかった、そんな背景をもつ神社にこうして多くの女性の巫女が集い、凛1人のために祈りをささげている、というのがなんとも慎ましやかでおもしろい設定ですね。
モテモテの凛ですが、その別れを惜しむ巫女たち、そしてその1人のチカがハナムケの舞を捧げた舞殿も実際にも大変立派な造りですね。
その涙しながらの舞の姿、私の大好きなシーンの一つです。
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
島根県 美保神宮へのアクセス
- 所在地: 〒690-1501 島根県松江市美保関町美保関608
- 車・タクシー: JR松江駅より車で約50分
ハニワット聖地探訪・長野編 ②熊杉の里
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
柔里が白鷺の夢に導かれ、訪れるこの熊杉の里、物語の重要なシーンのこちらの場所も実在します。
ちなみに白鷺はいくつもの日本神話に登場するもので、多くは夢の中、または選択を迷っていた際に目の前に飛来する、などの「お告げの象徴」、のようなものです。
そしてその白鷺の正体は「ヤマトタケルの使い」と言われています。
第十二代景行天皇の皇子として、全国を制圧していく英雄として語られる「日本武尊(やまとたける)」。
日本武尊は滋賀の伊吹山にて亡くなった後、その御霊は大きな白い鳥となって墓から飛び立ち、全国各地に飛来したという伝説も残されています。
そこから、日本武尊の神使は白鷺とされています。
ヤマトタケルとのこのハニワットでの関係は語られていませんが、日本神話の重要人物であるこの神との関係、意味もとても大きなものとして今後はっきりしてくることでしょう。
熊杉の里 大昌寺
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
こちら場所は長野県長野市戸隠の栃原(とちはら)、曹洞宗権現山大昌寺の参道敷地内にある立派な鎮守の杉、2本並ぶ夫婦杉です。
この夫婦杉のたもとで凛と柔里という運命の2人が出逢うという意味が、まさに伏線でもありますね。
ただこの場面、また後ですぐに再会する2人ですが、初めてあった瞬間に思わず声をかけたのは柔里からでした。
神話における日本創生の夫婦神、イザナギ・イザナミ、その出逢いのシーンは「どちらから声をかけたか」という点が大事な要素として語られています。
神話では女性のイザナミから声をかけてしまったことが忌むべきこと、との理由から、再度なかったことにしてやり直し(笑)男性のイザナギから女性のイザナミへ声をかけ直して、そして夫婦となるのでした。
このシーンでは柔里から声をかけてしまったので、いきなり喧嘩口調になってしまう2人のぎこちない出逢い、またお互いなかなか上手くいかないのですが、それもまさにこの神話がモチーフになっていると考えると、なかなか興味深い展開でした。
しかしその後、戸隠神宮内の正式な場所にて、しっかりと凛から主巫女(あちめ)のお願いを柔里にお願いするシーンにおいて、それは回収、2人はれっきとしたパートナーとして以後共にしていくのでした。
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
曹洞宗権現山大昌寺へのアクセス
- 所在地: 〒381-4104 長野県長野市戸隠栃原3082
- 車・タクシー: JR長野駅より車で約30分
ハニワット聖地探訪・長野編 ③戸隠神社
戸隠神社めぐり。#朝活 pic.twitter.com/j33QjGRH51
— 朝陽 (@asahi1396943) September 4, 2021
戸隠神社は、奥社(おくしゃ)、中社(ちゅうしゃ)、宝光社(ほうこうしゃ)、九頭龍社(くずりゅうしゃ)、そして火之御子社(ひのみこしゃ)の五社から成る神社の総称です。
創建二千年余りの由緒ある神社で、日本屈指のパワースポットとしても注目を集めています。
ここは決して行きたいときに行ける、という気軽な場所ではなく
「その時必要なタイミングで呼ばれる」とも言われる崇高な神社です。
戸隠神社ご祭神は、「天八意思兼命(あめのやごころおもいかねのみこと)」。
天照大神が天の岩戸に隠れた際、
「宴会して天照大神を元気づけよう、で、その騒ぎが気になってアマテラス様が開けた岩戸を開けた瞬間をおさえたらよくね?」と企画した神様です。
と、ちょっとふざけて書きましたが、この神社はけしてそんな優しい神社ではありません。
もし、本当に訪れるチャンスがあった場合は、心静かに、またしっかり体調を整え、明鏡止水の面持ちで参拝にのぞみましょう。(熊も出ます。)
なにしろこの長野、戸隠は劇中にオグナの表現どおり、「日本のへそ」なのですから。
戸隠神社・中宮
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
対ドグーンの対策司令本部、凛が仕合いの後に休んでいた場所、などの設定の社です。
実際には中宮ではなく「中社」です。
実際の中社には天岩戸伝説の際、神様たちに知恵を授けたとされる「天八意思兼命(あめのやごころおもいかねのみこと)」が御祭神として祀られています。
学問と商売繁盛にご利益があるといわれていますし、ドグーンに対する本部としての意味にも合致するところがあっておもしろいですね。
戸隠神社・禊の滝
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
凛と柔里が「虬霊の禊」(みづちのみそぎ)を行った滝。
中社の右側、少し奥にあります。
パワースポットとして有名で、こちらの滝の写真を持っておくと金運がアップするとの噂も。
虬霊とは「へび」や「龍」といった意味からも特にこのハニワットでは「水神」の意味として使われていると思われます。
長野の水脈、湖や山脈の尾根などは特に龍神と関係して説かれる場合も多く、特にこの神聖な戸隠神社の水脈には水神様、龍神様、は宿っておられるでしょうね。
このシーン、ちょっとした漫画においてもお色気シーン的な要素はありますが、そこに目を奪われると、とても貴重なシーンを見落としてしまいます。
それは、この滝の儀式において凛が自分の裸を恥ずかしがり、柔里に「顔を見るな!」と抱き寄せる場面。
あれはまさに神話のイザナギ・イザナミの黄泉の国でのシーンを男女入れ替えて表現した場面。
黄泉の国(地獄)におちた妻イザナミを追ってやってきた夫のイザナギ。
真っ暗な洞窟の中、妻はそんな自分の姿をけして見ないで欲しい、と夫イザナギに懇願します。
地獄の住人(人ではなくなった存在)の自分を卑下した凛の、本音をさらけだしたシーンですが、
このシーンから柔里は凛を静香に、そして確かに受け入れていくのです。
禊によって祓われた2人が真のパートナーへとお互い向き合い始める、とても大切なシーンだと思います。
そんなことを思いながら、是非この滝にお参りしてみるのもステキだと思います。
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
戸隠神社・奥社へと続く杉並木
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
マイナスイオンあふれるステキな参道です。
マスクなしで是非歩いてみたいところですね。
戸隠神社・八大竜王社殿
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
日本神話にある、天照大神が天の岩屋にお隠れになった時、無双の神力をもって、天の岩戸を開き、天照大神をお導きになった天手力雄命を戸隠山の麓に奉斎した事に始まります。
戸隠神社の御本社として開運、心願成就、五穀豊熟、スポーツ必勝などの御神徳が全国に広宣され多くの崇敬者が登拝されます。
こちらは実際の名称は戸隠神社・奥社です。
上記は公式な内容ですが、この社殿内部は、戸隠三十三窟の本窟「宝窟」に通じているそうでその中は非公開、秘密とされています。
そう考えるとこの社殿の中には秘密の洞窟空間があり、劇中では凛と柔里の「目交志の忌み籠もり(まぐわしのいみごもり)」、その男子禁制の儀式が執り行われた、と空想するのも、なかなか興奮する内容ですね。
また劇中では「八大竜王」とありますが実際そばに祀られているのは「九大竜王」です。
この「八」というのは出雲と関連のある数字とされていることからも、作者・武富先生の「意図を持った」修正だと思います。
この奥社のシーンもとても大切なシーンです。
その岩戸洞窟の中で陰部を露わにしながら踊る巫女、その柔里の姿はまさに神話における岩戸開きにシーンそのもの。
神話では岩戸に籠もった天照大神を中から誘い出すため、女性の神「天宇受売命」(アメノウズメノミコトが舞ったシーンを歴史ファンなら思い起こされたでしょう。
『日本書紀』にはその様子を、意訳すれば
天岩戸の前に集まった大勢の神々の前で伏せた空桶の上に立ち、アメノウズメ命は激しく桶の踏み鳴らし、次第にボルテージを上げ、やがて胸をはだけ、腰の紐をほどき、陰部を露わにして舞い踊り、その姿に大笑いの神々の声が響き渡りました。
岩戸の前は大変楽しくにぎやかな雰囲気になり、その騒ぎが気になったアマテラス大神が外を覗いたところを、待ち構えていたアメノタヂカラオ命が岩戸を開き、外に導いたことで世界に太陽の光が戻ったとされます。
とのこと。
この時に披露した踊りが、今も神前で行われる巫女の神楽(かぐら)の原型とされているのです。
それゆえ、アメノウズメ命は、岩戸開きのため、熱狂的な踊りを披露したことから日本の芸能のルーツ、とも言われる女神です。
柔里の岩戸開きの舞が、凛の額のチャクラ、その閉ざされた岩戸を開いたのでした。
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
戸隠神社へのアクセス
- 所在地:長野県長野市 戸隠3506
- 車・タクシー:JR長野駅下車 善光寺1番口より車で40分
境内の5社すべてを歩いて回るとおよそ4時間のコースです。
宿坊(裏、ではありません)もたくさんあり、ここは是非泊りがけで訪れたいものです。
ハニワット聖地探訪・長野編 ④善光寺中央通り・かるがや堂交差点
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
満を持してドグーンに対峙した、凛が変身した、真具土のハニワット。
その仕合いの場所がこちら、実際には「かるがや堂」ではなく「かるがや山」交差点です。
上記の対峙した場面は別の実際にはかるがや山交差点から東にある別の交差点からの景色ですが、ほぼ同じ場所です。(遠くにISLAND HOTELの看板が見えますね)
この辺りは4巻での激闘シーンで、街がどんどん破壊されていくのですが、その中でも凛は全力で僅差の攻防を続け、結果的にドグーンを圧倒していきます。
(c)武富健治/双葉社/古代戦士ハニワット
こちら、劇中ではドグーンに投げられたハニワットが俊敏な動きでかかとから着地、衝撃を和らげたシーンでした。
作者の武富先生いわく、取材した数年前は漫画のようなデザインのビルだったとのことですが、現在では改装され写真のようになっているとのことです。
まさにドグーンとの仕合いによって窓ガラスが破壊されたビルが、その後改装されて今の姿になりました…という現実に沿ったストーリーになり、それもまた大変おもしろいポイントですね。
まとめ
ハニワットトークイベントでも紹介しましたが、作画のベースに使った資料写真はこれ。執筆時に別角度が必要になり再撮影に行ったら…ビルの外装が変わっていました。既に変更は難しく以前のバージョンで統一しました。まるで…戦闘が原因で改装したような妄想に浸れます(笑)。#ハニワット聖地 https://t.co/dIoE3J0boE pic.twitter.com/Ne5sHJrmi8
— 武富健治@ 古代戦士ハニワット原画展&色紙オークション10月開催!マンガナイトBOOKS (@ryosuketono) September 12, 2021
ハニワット聖地探訪・長野編!3~4巻中に登場した場所を考察!という内容でお伝えしました。
ハニワットとドグーンとの仕合いを丁寧に描き、結果として1巻から4巻までで1体のドグーン、というかなりの長丁場な展開でしたが、これも作者・武富先生の意図した通りとのことです。
確かに、たくさんの伏線がはられつつも、大切なシーンにはそれだけのコマ割りを使い、読者になんとも読みたくなるような展開を、この4巻までで描かれていますね。
舞台となった長野県の街、戸隠神社、島根県の美保神社など、実在するロケーションを表現することにより、私たちへの既視感と、漫画への没入感が大変強調されており、すっかりハマってしまう読者が多いことと思います。
この後の5巻以降も、どんどん物語はここから勢いを増していくので、まだまだこの聖地考察は続けていきます。
どうぞお楽しみに!